一升パンというものがある。
不妊治療や妊活を始める前に、近所のパン屋さんで一升パンを見つけて、初めて見た時に私の頭の中に小さい赤ちゃんが大きなパンを背負うという、この世のものとは思えないような可愛らしい光景が広がってしまった。
それ以来、一升パンは私の憧れの存在になっていて、店の前で見かけるたびに我が子に背負わせる日を想像していた。
あれから数年。
初めて見た時からは随分時間がたってしまったけど、ついに我が子に背負わせられる時が来る。
事前に予約した一升パンを受け取りにいくと、明らかに他のパンとは違う雰囲気を持った巨大なパンにその場にいるお客さんの注目が集まった。
すると、お客さんの一人が声をかけてきた。
「今は軽くなってていいね。私の子の時はお餅だったから、すごい重たくて大変そうだったのよ」
おばあさんの一升餅は重たいぜエピソードだった。
それに対して私が
「そうですね。実はこの子も一升餅持ち上げたんですよ。しかも、いろいろ事情があって3回も持ち上げました。重いですよね。」
という感じの返答を……できるはずもない。
「へへっ。そうですね。」
ヘラヘラしてるだけ。
情けない。
息子からすれば、デカい餅を3回も持ち上げさせておいて、この返事はない。
しかも、今度はデカいパンまで背負わそうとしてるし。
父になって364日目。
これが今の私。
息子がいろいろと気がつく前に、もう少し頑張らないといけない。